悠のおはなしのおはなし

地道な積み上げが作り上げた傑作 〜 どっちのiが好きですか

作品概要

これほど「すごい」「楽しみだ」と思ったエロゲーは初めてかもしれません。

この作品のコンセプトは「ヒロインをリードする」「ヒロインにリードされる」の2パターンの交際が楽しめる、というもので、 その2パターンの「完全分岐」であるということです。

もうそれを聞いただけでおもしろいの確定じゃないか、というレベルです。

なので、ものすごく期待して、早い段階で予約(確か予約受付開始の翌日)し、体験版も見ないで待っていました。

完全分岐について

多くの人が気になる「完全分岐っていってもどの程度よ」ということですが、これは相当です。

全体でプロローグが3、共通パートが10、告白パート、個別パートが8、エピローグという構成です。 つまり、全体で22パートとエピローグですが、これはそのまま普通の構成ではありません。

共通パートが10ですが、プロローグ1にヒロイン個別パートが入り、共通6でヒロインを選択するため、共通7から10はヒロイン個別になります。 ここは共通パートといいつつほぼ重複がなく、共通パート中にヒロインエピソードが入る作品と比べてもヒロインエピソードは多め。 パート数はトータル13で、Sugar*Styleの共通パートのようにめちゃくちゃ長いわけではないものの、結構長いほうです。少なくとも、IxShe Tellよりも長いと思います。

そして、告白パートから個別パートは「リードする、される」で完全分岐して、エピローグも別です。

つまり、「個別パート」に関しては実質としてヒロインが8人いるのと同じ(!)というボリュームです。 eスクールライフもヒロインは7人でしたが、あれはかなり短いサブヒロインパートがあるだけでヒロインは4人ですし、IxShe Tellがヒロイン5人で割と短いことを考えるとすさまじいボリューム増です。

個々のルートのボリュームも、パート1と2が短めなので、「個別はあっさり目なのかな?」と考えてしまうのですが、実際には普通に1ルートあたりでHOOKらしいボリュームになっており、つまりは「いつものHOOKの1.5倍から2倍くらいある」というボリュームで、HOOKにあるまじきボリュームになっています。 SMEE、ASa含めてHOOKの最大の欠点は物足りないボリューム(ファンディスク含めて「まぁ、それくらい」と思う程度)ですから、それを克服した最強の作品といえるのではないでしょうか。

Hシーンは各4で、重複なしです。ただし、CGに関しては部分的に重複する(全く同じではなく、服装が違うなどの差分)ものがありますが、内容は異なり、かつCGも重複のほうが少ないです。

8パートに4回Hシーンがあり、最初2パートがあっさり終わることもあり、「Hしてばっかり」という印象もあるのですが、Hシーンも結構ストーリーが入っていて、読み応えがあるので「Hシーンばっかりなせいで内容が空疎」みたいな印象はありません。

リードする、される

今作最大のポイントであるリードする、される、ですが、生放送などで説明されていることは間違いなく事実なのですが、十分ではありません。

恋愛におけるリードする、されるという関係は難しい要素が多いです。

基本的に恋愛においては力関係というものがあり、「より好きな方が弱い」立場になることが多いです。 バランスがとれていればリードするのがどちらかというのは重要ではないのですが、現実にはこれは離れやすく、どうしてもリードするというよりは「すがりつく」に近い状態になる。 だから、「リードする側」が明確である状態というのは、一般的にあまり幸せな状態とは言えません。

ただ、これは「リード」の捉え方の問題が大きいです。 「リード」を広く捉えると多様で、特にそのような「必死さの違い」によるところが目立つという話であり、リードの意図するところをもう少し限定することもできます。 例えば本作オープニングにあるような「リード・フォロー」の関係です。この場合、決定権や主導権を持つ側が必ずしもより必死とは限らず、それに追従する側のほうが必死ということも普通に考えられるためです。

こうしたことから「リードする、される」という言葉だけでは何を意図しているのか全くわかりません。 普通に考えればHOOKのゲームがそのような現実の恋愛における息苦しい関係を再現する理由がないので、「積極性がどちらにあるかということかな?」などと考えていました。あるいは、主導権や、先手を取るほうとか。

実際には、これらはある程度あっていて、しかしながらそれで言い表せているわけでもありませんでした。

例えば、基本的には告白パートではリードする側が告白します。そのような「積極性の違い」はあるのですが、基本的には相互理解の進まないまま互いにおぼれていくような感じであるため、お互いに「自分ばっかり相手のことが大好き」みたいな状態になっています。まぁ、これは早いうちに解消され、「相手も自分のことが大好き」という認識になるものの、依然として互いに暴走気味に進みます。 ですから、積極性という意味ではお互いに積極的です。主導権という意味でもワンサイドということはなく、その意味ではコンセプトに徹しているわけではありません。 言い換えれば、「リードするを選択してもヒロインが積極的に動いて話を作っていくこともあるし、リードされるを選んでもヒロイン任せではない」ということです。

じゃあコンセプトが曖昧なのかというと、そうでもないんですね。 結局のところリードする、されるがどういう意味を持っているかというのはヒロインごとにかなりの違いがあり、例えば小柚子の場合は「リードされる」だとお姉さんにまかせなさい的展開ですが、「リードする」だと好きすぎて翻弄されるみたいな感じになります。 ここらへんは、公式サイトの感じに近いといえば近いですね。ちょっとデフォルメしすぎな気もしますが。

ですから、トータルで見ると「リードする」「リードされる」という風に言われると、納得できる感じです。 ここらへんは、「関係性の微妙な違い」という感じですね。積極性という要素もありますが、パワーバランスの違いではありません。 積極性というと「任せる」感じがするのですが、「どちらも積極的だけれど、より積極的なほうがより多くアクションを起こす」ような感じでしょうか。

どちらを選ぶかでヒロインのキャラクターや主人公のキャラクターが大きく変わるということもないので、「リードする、される」という表現に身構えている人も安心できるものだと思います。ちゃんとそのヒロインらしく、人格が変わるようなこともなく、関係性が著しく変わることもなく、しかし最終的にはそのような表現に納得できるようなものになっていますから、純粋に「二通りの展開がある」くらいに考えても差し支えないでしょう。

マルチライターの問題

今回ライターは三人ということですが、若干気になる部分もありました。

この量を一人で書くのはいくらなんでも、というのは当然なのですが、やっぱりマルチライターだと煮詰めの甘い部分が出たりするなぁ、という感じです。

一番気になるのは、ハンナルートです。

A(リードする)、B(リードされる)共に、個別ルート序盤に地の文で「四谷さん」と「ハンナ」が混在しており、特にAルートではハンナと呼ぶ明確な理由がないままハンナと呼ぶようになり、さらにハンナが共通パートで豪傑館に来ていたということが無視されてしまいます。 ついでに、ハンナBルート1は、いくらなんでもちょっとひどいのでは…これ本当に面白いと思ったんだろうか…という気持ちになるものでした。

また、小柚子Aルートも、かなり違和感のあるものでした。 Bルートで示される無視できないはずの要素が無視されているというのもありますが、小柚子のキャラクター上重要な要素が抜けてるんじゃないかなぁ…という気がしてしまいます。パート的にはいいと思うんですけど、AルートとBルートでパーソナリティにずれがあるんですよね。

際立って違和感があるというわけではなく、このあたりは物書きであり、行動心理を専門でやっている私だから気になるという話である可能性が高いですけれど、私としてはちょっとどうしちゃったの…という気持ちになるものでした。 ハンナルートはA、Bとも類似のミスですから同じ方が書かれていると思うのですが、小柚子AとBは別の方が書かれているのかもしれませんね。

どうしても気になるバイクの話

元プロライダーとしてはどうしたって気になってしまいます。

まず、バイクに関しては車両運送法と道路交通法によって決まっています。

車両運送法では(三輪車を別にすると)次の5種類。

  • 第一種原動機付自転車 (50ccまで)
  • 第二種原動機付自転車 乙種 (80ccまで)
  • 第二種原動機付自転車 甲種 (125ccまで)
  • 軽二輪 (二輪自動車(側車付二輪自動車を含む)で、長さ2.5m以下、幅1.3m以下、高さ2.0m以下、総排気量250cc以下)
  • 二輪の小型自動車

一方、免許については道路交通法によって定められており、次の3種類。

  • 原動機付自転車 (50ccまで)
  • 普通自動二輪車 (400ccまで)
  • 大型自動二輪車

普通自動二輪車運転免許には3種類の限定免許があり

  • AT限定
  • 小型限定
  • 小型AT限定

なお、大型自動二輪車運転免許にもAT限定の限定免許があります。

免許の種別が違うのと、限定がつくのの大きな違いは、これに違反したときの扱いの違いがあります。 普通自動二輪車運転免許保持者が400ccをこえるバイクを運転すると、当該車両を運転するのに必要な免許がある大型自動二輪車運転免許を保持していないため「無免許運転」になります。一方、普通自動二輪車運転免許小型限定保持者が125ccを越えるバイクを運転すると、当該車両を運転するのに必要な免許である普通自動二輪車運転免許は保持しているものの、免許条件に違反しているため、「免許条件違反」になります。

ちなみに、免許条件違反も無免許運転と同等の扱いになるので、別にそのほうが軽いということは全くありません。

二人乗りの条件は

  • 普通自動二輪車運転免許または大型自動二輪車運転免許を保持し
  • 当該免許を受けてから1年を経過し
  • 同乗させるための装置を持つ車両で
  • 定乗員数を超過しない

という条件を満たす必要があります。 また、軽二輪及び二輪の小型自動車は高速道路の走行ができますが、高速道路で二人乗りするためには当該免許を受けてから3年を経過する必要があります。

さて、これによって気になるのが

  • 「原付き二種免許」というものは存在しない
  • 原付免許が簡易な試験なのに対し、普通自動二輪車小型限定は普通自動二輪車に準じた学科と実技があり、特に学科は普通自動車運転免許とも共通のものなので 普通自動車運転免許小型限定を受けるための学習に使用した教材を原付免許取得に使用するというのは現実的でない

ということです。 余談ですが、普通自動二輪車運転免許小型限定を受ける場合、普通自動車運転免許同様に学科を受験し合格する必要があり、これによって以降の免許で学科を免除されることとなるため、ステップ的に大型自動二輪車運転免許や普通自動車運転免許を取得する際の簡略化のために使用することができます。

また、30年ほど前までは車両運送法の規定として750ccというものがあったのと、20年ほど前までは道路交通法により運転免許の種別として小型自動二輪車運転免許というものがあった、ということも添えておきましよう。 小型自動二輪車運転免許は普通自動車運転免許に対して独立の免許であり、学科も共通ではなかったため、当時は小型自動二輪車運転免許を取得しても学科の免除を受けることはできませんでした。結果的には125ccまでの免許を受けるのは難しくなったと言えます。難易度的にもカリキュラム的にも大差ないので、どうしても400ccの教習車が扱えないという事情がなければ普通自動二輪車運転免許を受けるほうが楽ですし、お得ですね。「CBR125TとVFR400K」だった頃は、400ccって重くてでかくて大変だったんですが、今教習車だとHYPER VTEC Revo世代のCB400SF(ちゃんとHYPER VTEC Revoも搭載)なので軽くて乗りやすいですし1

そしてもうひとつの問題として、安全指導とかもやっていた私の感覚でいうと、薄着で「女の子」を主張するために乗っているファッションライダーって心底だいっきらいなので、絵的な理由があるにせよ、超軽装でバイクに乗る小柚子に嫌悪感を感じてしまうんですよね。

グラフィックの話

絵柄も塗りも、今までのHOOKとかなり違う感じでした。

体験版、数秒だけチラッとみたときはかなり違和感があり、「ちょっとこれは集中できないのでは」などと思ったのですが、プレイして結構すぐに違和感はなくなりました。 デザイン的には大人っぽく、身長が高く見えますね。

立ち絵と一枚絵で印象が違う…というか、やや一枚絵が安定していないような印象があります。 一枚絵の中に「ん…?」と感じるものが含まれているような感じ。

興味深いのは、小柚子の「体に」ホクロがあること。 小柚子は顔にもホクロがありますが、「体にホクロがある」というキャラクターは純愛ゲーではかなり珍しいような気がします。

そして一番私の気を引いたのが、「隣を歩いている」絵。 これは全キャラクターにあるんですが、そのキャラクターが一番出ていて、どのキャラクターも非常に魅力的です。 その中でひときわ目を引くのがハンナ。ハンナの歩いている絵は「顔がゆるゆる」で、共通パートから既に好感度が振り切れているように見えます。実際に、接点に乏しいまま交際に発展することから、ハンナはAルートでもBルートでも非常に好感度の高い印象がありますから、多分意図的にあのゆるゆる顔なのでしょう。 それも含め、全ヒロイン「うわー、かわいいー、かわいいー」となるのはこの歩いているシーンでした。歩いているシーン、どれも内容もとても良いんです。ただ、摩耶に関してはプロローグで摩耶を選ばないとルート入りまでに歩くシーンはなかったような…もしかしたら他のヒロインにもそういうキャラクターがいるかもしれません。

あとあれですね。小柚子Aの麗と、ハンナBの紫子、摩耶Aの心音は1度しか登場しない贅沢な立ち絵がありますね。

また、各ヒロインはABルートで服装も違うものがあるのですが、これは完全に厳密なものではなく、特に小柚子は明確でありません。 ちょっと気になるのは、小柚子には「ボーダーシャツにキャスケット」という服装があるのですが、キャスケットをかぶった立ち絵を摩耶Aでしか見ていない気がするんです。 CGを見ると小柚子Bにこの服装で歩いている姿があるんですけど、リプレイしてみても見つけることができませんでした。

ネタバレあり: 演出と音楽

この部分、すごくすごく強調したいです

演出なのですが、本作はかなり細かく様々な効果音が使われています。 HOOKは印象のための効果音は使うものの、物音などは比較的少ないという印象なのですが、本作では非常に細かく物音などが表現されており、これが臨場感があってものすごくいい味を出しています。

そして、音楽。

もう、ここまでの音楽は私も音楽家としての全力をもってお応えしなきゃ失礼になる、ということでお仕事環境2に持ち込んで聴きました。3

今回もSONO MAKERが担当していますが、SONO MAKERってこういう曲強いなぁ、と感じました。 何かというと、「ヒロインテーマ」です。

HOOKと姉妹ブランドの作品ってヒロインテーマはないことも多いのですが、本作は各ヒロインテーマがあります。 そして、各ヒロインテーマの「アレンジバージョン」があります。

アレンジバージョンはいずれもピアノ旋律のちょっとしっとりした感じなのですが(摩耶のテーマはアレンジテーマはエレクトロ風でシンセベルですが、メインのものよりもだいぶしっとりというか軽快)、ヒロインごとに「本命になるルート」があり(本命というか、自然。芽愛とハンナがA、小柚子と摩耶がB)、そちらのルートでは通常のヒロインテーマ(共通パートと同じもの)で、反対側のルートではアレンジテーマがヒロインテーマになります。

これがすっごくいい味を出しているんですよね。 で、そのアレンジテーマがどれもすごくよくって。最高なんです。 単に聞いてるだけでもいいんですが、これはもう、ドラム叩くしかないでしょ!!!!って感じのドラム大好き人間にとっては大好物というか、もうほんと最高すぎるんですよ。ハンナのテーマであるThe Modern Trendはノーマルバージョンも含めてほんと最高で、ドラムでやりたい。 あと、作業用BGMにも最高です。

というか、IxShe Tellのときもあれだけ最高のBGMを用意していながら特典サントラの選曲が微妙だったんですが、今回もちょっと微妙で、なんでそうなったんという感じが…というか、なんでヒロインテーマにしなかったの…そして、なんでオープニングだけでエンディングはないの…

それから、アレンジバージョンはエフェクトで結構厚みを出している上に、ダイナミクスも大きく、強めの副旋律が入ったりするのもポイント。The Modern Trendに関しては 転調もありますしね 。 つまりは、SONO MAKERとしては「BGMとして馴染みやすいように」基本的にのぺっとした曲を作っているのだと思うのですが、アレンジバージョンはそうなっていないんですね。これは、サントラなどに入れるときに入れるようなアレンジバージョンの感覚に近いと思います。 それをあえてBGMとして採用したのもすごいですが、「ああ、これがSONO MAKERの本気なんだなぁ」と思いました。

IxShe Tellにも作業用BGMにこの上ないものがありましたが、今作にはそれを上回る最高のものが投入されてきましたね。

そのアレンジバージョンをじっくり聴けるという意味も含めて、ミュージックギャラリーは絶対に行くべきです。 各曲、異なるフォントが採用されているんですが、そのフォントのチョイスがとても心をくすぐります。

そして主題歌も触れるべきですね。

オープニングテーマは櫻川めぐさんが歌う「僕らのWatercolor」。water-colorって水彩ですね。アナログ絵師だった私には大変馴染みのある単語です。

私いつもエロゲーのオープニング映像って「すごいなぁ、これ大変だよなぁ」って思いながら食い入るように繰り返し見ているのですけど、今回はあんまりそういう動的要素は多くはなくて、もっとPV的(ティザー的)なものになっています。 物足りないけれども、なかなかスタイリッシュで見所はあります。

櫻川めぐさんの歌、直接拝聴したことがないので補正上の問題かもしれませんが、数年前と比べて格段にうまくなられた気がしますね。 高音で以前は圧開放で短いピッチグライドを入れていたのですが、そのせいでややピッチ不安定な面があって、そのあと音が下がるとややズレる傾向があったりしたのですが、最近は圧閉鎖で長めのグライドを入れるようになったようで、歌い上げ系のフレーズがよく伸びるようになった気がします。

とりあえず、バスドラムとスネアドラムの音の組み合わせがちょっと面白い。ハイハットの音も考えるとドラムは生ではなくて音源かな(マシンかどうかはわかりません。エレドラ演奏って可能性もありますからね)。 演奏的にはどのパートもかなり簡単。弾いてみた動画が作りやすいですね。私も今がんばっている曲に挫折したら叩くかもしれません。ツインペダルいらない曲だし(ただしダブルストロークはあり)。インスト版もあるし。

音楽性としてはちょっと古めですね。90年代の音楽をリファインしたような味わい。 しかし、サビの中間でストリングスパートのトラック増やしてくるあたり現代的でイケてます。

ただ、どうしたって私こういう盛り上げ方大好きですよ。私がまだ見習いだった頃、ストリングスによるサブフレーズをどう入れれば盛り上がるかっていうのはめちゃくちゃ試しましたし、「やっぱり跳躍和音ですよね!」という気持ちになります。 キーボード的にすごく弾きやすいメロディなのもいいですね。 自分が作る音楽性に近いから盛り上がってるんじゃねーぞとか怒られそうですが、サビの本当の見所部分である「君なんだ」からの部分は私が作る感じには遠いですし、その部分がすごく好きなんですよ。

古典的なドラマチックフレーズと、緊張感のある跳躍というベタな手法をビシッと決めて、急速なフレーズ切り替えを挟んで

そしてエンディングは「イリデッセンス」。イリデッセンス(iridescence)は…玉虫色ですね。 珍しいのが、「イリデッセンス」も曲調としては「僕らのWatercolor」に近いんですね。もう定石として、OPとEDは対称的な曲を使うもので、音楽に対して素晴らしい自由度を持つエロゲー音楽の中では数少ないルールだったりします。ですから、OPと曲調が近いEDというのはそれだけでも珍しいし、意図があるのだと感じられます。

もちろん、「イリデッセンス」はエンディングらしく、しっとりした曲調ではあるんですが、メロディや展開は「僕らのWatercolor」を引き継ぐようなものであり、ヴォーカルの安田みずほさんが声質の傾向としては櫻川めぐさんに比較的近いこともあり、すごくつながりを感じられるものになっています。 似ている点としてはビブラートの入り方もそうですね。おおよそアタックから8分後にビブラートが入って「から」減衰するという特性に類似を感じます。 アタックが弱めで声自体も少し倍音優位なので比較すればまろやかな声ですし、この組み合わせよく考えたなぁと思ったりします。

曲自体はやっぱり90年代っぽいんですが、イントロ(間奏も同じ)の後半でいきなりフュージョンっぽいコード進行になるのがなんとも。 しかし同じ感じなのにサビでそれをやるとまたしても90年代っぽいんですよね。ちなみに、ドラムキットの音色としてはビンテージ寄り。

バラード感ありますが、テンポ自体は割と速くて、エンディングってルート数が増えると繰り返し見ることもあってダレるし飛ばしがちなんですが、さらっと聞けてちょうどいい感じに余韻を噛み締められるのが良いですね。 エンディングにショートバージョンを持ってくるのはHOOKのいいところだと思います。

ただ、曲としてはフルで聴きたかったなぁ… 聴けばきくほど味わいの出る曲で、ループ再生にも耐えるタイプですね。

この曲、結構ミックスが秀逸で、トラック数がわりと少ないんですが、instrument自体がもっている余韻を除けば割とドライに仕上げてあって、ドラム上げ気味のミックスです。 そして、「和音下げて旋律上げる」なのでヴォーカルも聴きやすくて、トラック数が上がるとベースを下げるという感じ。 耳が疲れなくてすごく良いですね。優しいミックス。

曲自体は王道というか、前述の通り90年代っぽいんですが、連続転調ポリモードが入ってたりするのが現代的。 最近はジャンルを越えてこういうのを局所的に入れますよね。 それとヴォーカルの絡みもとても良いです。サビの「青い」の部分と、アクセントの「街並みが〜」の発声が同じ方法になっていますが、「青い空と」で「青い/空と」と切って「空と」を共鳴下げて発声するのは「へぇー!」と思いました。同じメロディのサビ前半はそうしていないので、恐らく意図的なものなんでしょうけれど、気づきにくいながらもアタック弱めで割とソフトな声の印象はここがあるからだと思うんです。 もし全部張り切っちゃうと、もちろんかっこよくキマるんですけど、曲として考えると重いんですよね。こんなけ優しいミックスになっているわけですから、曲の意図としてはそれを望んでいるわけではないでしょうし、サビの一部分とはいえ優しく歌うことで曲全体が優しい感じになって、結果として作品全体の印象もまた優しいものになっていると思います。

だから作品全体を通して、優しくて愛しい作品だったな、という感じなんですよね。 なんとなくイメージとしてはオープニングから本編がひとつの円弧(虹かな?)で、エンディングから次の(ずっとずっと先へ続く)放物線みたいな感じ。

もうひとつ言うなら、エピローグの曲がこの曲のオルゴールアレンジなのもめっちゃ胸に染みます。 これ自体はままあることではあるんですが、本作では「僕らのWatercolor」のピアノアレンジが至るところで使われていることもあり、非常に効果的でした。

タイトルからもわかるようにオープニングとエンディングでは同じことを主題として扱っているわけですが、染める、あるいは染められるものである水彩をオープニングにした上で、エンディングでは「玉虫色」という表現をするというのは、本質的にこの作品のことなんだな、と感じられました。

いや、「玉虫色」というよりは「虹色だよ!」と言われそうですが。 iridescenceという言葉についてもうちょっと追求すると、「虹色」という表現だと虹そのものをイメージされる方が多いと思うのですが、日本語的にも虹色って虹の配色のことではなくて、「色とりどり」という意味なんですね。 しかし、玉虫色というと複雑な色、明らかでない色という意味合いになり、一般的にはネガティブに使われます。

一方、iridescenceという言葉の主幹は、「色が変わる」という点にあります。 典型的には光の当たり方によって違う色に見えるもの(まんま玉虫とか)であり、単純に変色するイルミネーションに対して述べることもあります。また、虹むらを指して言ったりもします。 言語的に重要な点としては、iridescenceというのは光学的な色彩のことです。ですから、単純に「塗った色」に対してiridescenceということは基本的になく、マジョーラ塗装のような光学的に特徴的な特性を持つ場合にしか使われません。 ここで重要になるのは「iridescenceの色彩は、その人の目に届くまでの光の屈折に大きく左右される」ということです。言い方を変えれば「色彩が見方によって大きく変わる」ということでもあります。

つまり、私はリードする、リードされるという言葉を聞いてある程度の先入観を持っていましたし、そのような人が多いでしょう。 けれど、作品としては実際にはどちらを選んでもワンサイドゲームになることはなく、それぞれがそれぞれに積極性を発揮します。 いろんな側面や、いろんな思惑があって、ひとつのものがいろんな色を持っている…という意味もあるでしょうし(いや、これについてはその意図があるのかどうかはやや怪しいところですが)、 それより濃厚なのは、「それぞれが持っている色彩が混ざりあった」結果、water-colorがiridescenceになった、ということでしょう。

さすがにiridescenceなんてあまり日本人に馴染みのない言葉に対してそこまでの知見を前提にタイトルにつけたかっていうのは疑問なんですけれども、実際にはすごくぴったりです。 オープニングは「僕らのWatercolor」ですし、歌詞的にも「それぞれがそれぞれの色を持っていて混ざり合う」というものですが、エンディングが「イリデッセンス」なので「見方によって何色にも輝く」っていうのは、本当にその作品のオープニングとエンディングにおける心情に重なるんですよ。少なくとも、「僕」と「君」で色を足していって混ざりあった結果がエンディングなわけですし。「イリデッセンス」の歌詞も色をフィーチャーしていますから、そういう意識自体はあると考えて間違いないと思っています。

すごい!うまい!

SONO MAKERとどんなやりとりをして曲を作っているのかめちゃくちゃ気になるのですが(私の経験の限りでは、音楽が作品に深入りするような作り方はしていませんでしたし)、Sugar*Styleにおける芸当(作品を補完し、OP、EDともフルで聴かないと作品として完全にならない)を考えればそこまで考えていたとしても全く不思議はありません。

また、ルートクリアするとタイトル画面にSDが並ぶのですが、ルートごとにSDが異なり、最終的には8種類のSDが並びます。 これがまた、すごくいい。これ、相当感動しました。

余談: 声の話

小柚子が絶叫ツッコミキャラなのでつる植物に、紫子はお嬢様キャラなので姉姫に聞こえてしまう冥王様は多そうです。 ハンナの「旦那様」もありますが、ハンナはお嬢様キャラですがその「旦那様」以外に押しかけ女房を感じることはありませんでした。

あと、あれですね。芽愛の「ちょいワル」(小柚子Aで登場)に反応してしまう4という。

ネタバレあり: キャラクターの話、注目すべきシナリオの話

ディレクターの宅本さんは「メインヒロインって好きじゃない」ということをおっしゃっているのですが、今作は珍しくメインビジュアルが小柚子だけというメインヒロインフィーチャーです。

ですが、実際のところ作品的には摩耶がボスだったなぁ、と思いました。

個人的には摩耶って共通パートではかり嫌な感じだなと思っていたんですよ。 共通パートで摩耶を好きになる余地が少なすぎて。

ただ、摩耶ルートに入ってからは摩耶はめっちゃ可愛くて、内容的にも「これ、本命なのでは…」と思っちゃうものでした。

(ちなみに、芽愛A、小柚子B、ハンナA、摩耶B、芽愛B、小柚子A、ハンナB、摩耶Aの順でクリア)

どのヒロインもすごく可愛かったですし、「全ヒロイン好きになれる」作品ってはじめてかもしれない…という感じなのですが、 ただそれもあってMaking*Loversとは違う意味で、「結ばれなかったヒロインのことを考えると辛い」作品でした。 私、エロゲーにあんまり向いてないのかもしれない。

また、シナリオにおいてどのルートでも発生するイベントに対する「扱いの違い」があります。 芽愛A、小柚子Bでは花火大会に行かず、ハンナBでは花火大会の途中で帰りますが、これは裏パートがあるためにそんな展開もできるという面もあるでしょうが、恋人たちの睦まじさとして、イベントにこだわらないのは、自然であるだけでなく、実際の恋愛においても良好で肩の力が抜けた関係でないとできないため、いいなぁ、と思いました。

あと、芽愛Aにおいてやたらリアルなケンカをするところも、心は痛いですが、こういうの描けるのはHOOKかSMEEくらいのものだなぁ、という感じです。

細かなところだと、摩耶01Aの昼休みが終わるところのアイキャッチもすごく好き。 摩耶Aのアイキャッチはどれも結構面白いことになっていますけれども。

シナリオ全体で好きなのは摩耶A、エピソード単位だと小柚子08Bと芽愛08Bですね。芽愛08Bは、色々思い出して胸が苦しくなってしまいました。 至るところ良いお話や楽しいお話があり、本当に楽しませてもらいました。

総評

発見された問題点としては、ハンナルートにおけるテキストの粗さもありますが、そのほか摩耶Bルートで立ち絵にバグってるものがあること、タイトル画面からクイックロードできないことですね。

それ以外はなんというと、各要素を丁寧に積み上げていった感じです。 HOOKの作品って、人力が足りないという面もあるのでしょうけれど、割と粗さがあるんです。それが良いという面もありますし、それが優劣を決めるわけではないんですが、あまり「完成度が高い」という印象はありません。

ですが、本作に関しては、しっかり丁寧に積み上げていって傑作の域まで到達したという感じがあります。

もちろん、コンセプトの大勝利という部分はあります。が、コンセプトに頼って極端にそれを演出したというわけではなく、むしろそんなわかりやすく魅力的なコンセプトをぶち上げていながら、丁寧に、失敗すればコンセプトを曖昧にして台無しにしかねないようなトライによって紡がれています。

音楽や効果音といった要素も含めて、ひとつひとつを雑にせず、丁寧に積み上げていった結果出来上がったものという感じです。 そのため、本作は本当に完成度が高いですし、ですからいつものHOOK系列作品のようなミスはかなり少なく、誤字脱字の少なさ(あるにはありますが、全体で3箇所かな?)もあって、本作はすごく丁寧に、妥協したり、疲れで投げやりになることなく積み上げて達成したものなんだなぁということを感じられます。 (完璧ではありませんが、さすがに作業量を考えれば完璧を求められるようなものでもありません)

Sugar*Styleは音楽の効果がものすごくて、クリアして「ほどほどいい感じだったなー」なんて思っていて、オープニングとエンディングをじっくり聴き直した結果「いやいやまてまてまてまて」となっていきなり発見に至り、そして流星群のシーンの意味に気づいて「うわあああ、すごいすごいすごい」となったわけですが、ああいうのはまさに総合芸術のなせる業、エロゲーという媒体だからこそできた素晴らしい芸術作品という感じでした。

その点からすれば、本作はそうしたドラマチックな演出とか、圧倒的な何かのポイントや深みみたいなものがあるわけではありません。 そうなると、どうしても佳作止まり…というのが、(私としては)普通の感覚です。

しかし、実際にここまで丁寧に積み上げられるとやっぱりすごいなぁ、と思います。 これは、もっともっと手厚い体制を持っていて、もっと多くの本数を売り上げるような作品でも、やっぱりどんなに作り込んでも佳作だなぁ、と感じてしまうのですが、これに関してはそうした強烈な要素がなくったって、ここまで描ききれば傑作と言って何ら差し支えない、そう思います。

そもそも、各ヒロインとのIFストーリーがあるという時点でエロゲーならではなのですが、交際の姿にIFがあるというのもエロゲーならではですし、同じストーリーを他の要素を取り除いて他の媒体で表現したところで、ここまでの素晴らしい作品にはなりようがないでしょう。 ですから、この作品の素晴らしさはエロゲーでこそ表現可能なのであり、やはりエロゲーという媒体の持てる力を余すことなく発揮したからこそここまでの作品が出来上がった、と言えるのではないでしょうか。

しかし、ここまで「コンセプトで勝利し、その上で見事に描ききって完成度も高い」という作品を作りあげてしまうと、次回作へのハードルが高そうです。期待値が際限なく上がってしまいますし、奇跡の一作になってしまわないようにしないとと考えると大変なのではないでしょうか。情熱的にもエネルギー的にも。

あ、あと、IxShe Tellのソシャゲコラボはかなり嫌だったので、これが代表作になったとしても、そういうのはしてほしくないなぁ…


  1. 実は私は免許を失効して割と最近取り直したので、この第三世代CB400SF教習車に乗りました。旧型よりもずっと軽くて軽快で、おかげでブレーキもめっちゃ効くのですごく楽でした。↩︎

  2. このサイトではあまり話していませんが、私は計算機科学者、音楽家、声優、物書きのよっつが現在のお仕事。↩︎

  3. ASIO4ALL経由でUS-366から出して、PRO900で鳴らす。 サントラに関しては普段リスニングに使っているLinux(ALSA/Jack)→Audio4DJ→PRO900とD-F102→PRO900でテスト。↩︎

  4. 姉妹ブランドのASa Projectの最新作、「恋愛借りちやいました」で、飴川紫乃さんは「ちょいワル」を連呼していました。↩︎